オープンデータはヘルスケア業界でどう使われるのか?
目次
いままで、オープンデータがどのように病院経営に寄与するかをお話ししてきましたが、今回は、ヘルスケア業界ではどのようにオープンデータを利用していけばいいのかを、NDBを例にお話ししたいと思います。
厚生労働省が公開するオープンデータ
厚生労働省は、NDB(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan)をオープンデータとして2009年から公開しています。これは、レセプト(医療機関から提出される請求書のようなもの)データ及び特定健康診査の特定保健指導のデータが集められています。
これによって、日本国民がどのような医療を受け、健診によってどのような異常を発見され指導を受けているかが分かります。いわば日本のヘルスケアの全貌が分かることになります。
これは、レセプトが電子情報で提出されるようになってビッグデータとして収集することが急速に可能となりました。公開当初は研究者のみに公開されていましたが、このような価値のあるデータをさまざまな人が活用できるように2016年から一般公開することになり、オープンデータとなりました。実際このデータはどのように使われることが期待されるでしょうか?
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ヘルスケア業界でNDBの利用方法
ヘルスケア業界でNDBを利用した場合、どのような場面で活かせるのかご紹介します。
- 患者ニーズの高い分野の推定
- 医薬品の安全性の向上
- 地域包括ケアへの貢献
患者ニーズの高い分野の推定
NDBによりどのような患者が増えているのか、どのような患者に長い間治療が行われているのかが分かります。それを把握することによって新薬の開発の手掛かりとすることができます。
またこのデータベースを利用すれば、一人の患者の処方薬の変更や治療内容の変更の経過をも把握できます。そのため、効果の低い医薬品や治療の推定が出来、それを提供する業者は、改良の必要性や、さらに新しい治療法の開発の必要性を把握することができる訳です。
医薬品の安全性の向上
このデータベースは、各々の医薬品の服用患者数の把握も可能です。そしてその患者たちがどのような副作用で治療を受けたかも把握することもできるのです。
さらに、ある症状で治療を受けた患者数を把握することにより、その医薬品の副作用と考えている症状を呈した人の数を把握することができます。そうすることにより、薬品会社に上がってくる副作用発現の報告よりも多くの患者さんが症状を呈していた場合も発見することができます。よってより詳細な副作用発現率を求めることもでき、年齢別での副作用発現率なども求めることも可能です。そして、医薬品の改良に役立てることができます。
地域包括ケアへの貢献
現在、地域住人の健康維持のため「地域包括ケア」という概念が定着しています。住人が医療・介護・生活支援や介護予防を一体として地域で受けられるように整備が行われています。そこで必要となるのが、地域での疾患別の患者数や背景情報です。これも、地域ごとに異なっているので、個別にデータ解析を行う必要があり、NDBが有用となります。その分析で得られた情報をもとに行政のサービスの充実を行うことが可能となります。また地域で多い疾患の知識を地域住民がより理解できるような啓発の機会を設けることもできます。民間の業者は介護などの施設の設置に、その規模や人員の配置などを検討することができるのです。
NDB民間利用の提案例―生命保険―
NDBの利用方法のアイデアを提示しましたが、民間のヘルスケア業界では実際、どのように使うのが良いかお話しします。
NDBデータは匿名化されているとはいえ、非常に機微診療情報であるため、その管理はかなり厳しいのです。利用には審査を受けることになります。そのためアカデミックな利用でしかデータを取得できなかったのです。しかし、2020年10月からは公益性を有すると認められる場合、民間事業者も利用可能となりました。でも、あくまでも「公益性」があることが条件となります。
この条件を満たせるのは、その一つとして表題にも書きましたが生命保険をあげたいと思います。先述しましたようにNDBには特定健康診断の指導記録も残っています。さらにその人たちがその後どのような病気にかかり、医療機関を利用したかも追うことができるのです。それによってどのような人が生命保険をより使う人になるのかも把握することができるのです。そうして生命保険料の割引や特約などの設定が可能となります。
最近、健康診断で指摘された異常への対応も含めた生命保険商品が出回っていますが、それを実証するためにもこのデータは有用です。健診で異常が発見されて早急に受診をした方が結果的に医療資源を使うことが少ない(保険の払い出しが少なくなる)という分析結果が出ればさらに企業戦略も立てやすいでしょう。
健康を維持することが医療費を減らし、国の負担を少なくし、さらに保険会社も利益を得られる。公共性と民間企業の利益が同時に満たされる事例となると思うのです。
さらにNDBを役立てるには?―NDBデータ利用の見えない壁―
さて、このように「有益な情報の山」であるNDB。実は先述のように機微な診療情報が含まれるため、利用に一定の制限があります。審査もある程度簡単にしようという動きはありますが、あくまでも担当者しかデータに触れない、申請した利用目的以外には使用してはいけないなどの規約があります。とある研究者が、申請したデータを薬剤会社と共同で使用したとして処分された事件が起こりました。この研究者と厚労省担当者両方の言い分はありますが、NDBのデータがあまりにも詳細かつ多岐に渡っているため、その取扱いが非常に慎重な体制であることが伺われます。
「有用な情報は様々な人が利用できる状態がふさわしい」といのは自明です。しかし、そこに「個人情報の壁」が立ちはだかります。
確かに「個人情報の保護」は大切です。個人情報が漏洩することにより、生活が壊される人、人間関係が壊れてしまう人などたくさんの障害があることは皆さんお分かりと思います。ただ、匿名化処理を行われているデータを、データを捜査して特定の個人に結び付ける、または情報を抜き取って故意に漏洩されるなどの行為は明らかにルール違反であります。今は、その罰則がまだ軽いと私は思います。その場合の罰則を強化していくことが、今後様々なデータがファイルとして取引される現代においては、必要と思っています。
大量のデータは、多くの人が関わって解析していくことによって更なる治験が得られます。そして、解析していくうちに更に問題点が見つかり、追加の解析や追加の問題点に向けてのデータ利用を行う事も多々あると思います。そのためにもNDB利用に関するルールが更に開かれたものになることが望まれます。
そのためにもオープンデータの利用に関する倫理規範なども必要でしょう。先述のように悪意ある故意の不正利用は厳重に処罰することも必要です。
NDBを使った研究をまず行ってみよう
当初アカデミックのみに公開され、民間利用がその後許されたNDBですが、そのデータの有用性を実感するにはデータと入手することが必要です。まず自分で研究計画を作り、データを入手し、そのデータの有用性を確認したのち、ご自分の施設、法人などで利用できるデータは何かを検討し、「公共に資する」ことも考慮して改めてデータを入手。そして、それを解析してプランニングし、今後の運営などに役立て行きましょう。
まとめ
厚生労働省が公開するNDBは、医療機関のレセプトデータや特定健康診査の情報を集約しており、日本のヘルスケアの全体像を把握できる貴重なデータベースです。
NDBの活用により、患者ニーズの分析や医薬品の安全性向上、地域包括ケアの促進など、さまざまな分野で具体的な貢献が期待されています。しかし、その一方で、NDBの利用には個人情報保護の観点から一定の制約が設けられており、倫理規範やルールの整備が求められることも事実です。
これらの課題を乗り越えながら、NDBの活用が進めば、より質の高いヘルスケアサービスの提供や公共の利益の追求が実現できるでしょう。今後はNDBデータを用いた研究を積極的に行い、その有用性を実感しながら、さらにオープンデータの活用範囲を広げていくことが重要です。
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