NDBオープンデータを使った論文のご紹介
目次
皆さんは、NDBオープンデータについて、一度は耳にしたことがあるでしょうか?
NDBオープンデータとは、厚生労働省がホームページで公表している、日本全国で診療や特定検診を受けた患者情報が、誰でも二次利用できるよう集約された統計資料のことです。NDBオープンデータを分析することで、国民の医療の実態を把握できるため、全国の研究機関や一般企業による利活用が進められています。
この記事では、NDBオープンデータの内容や実際に活用された論文を紹介します。NDBオープンデータを経営戦略に生かしたいと検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
NDBオープンデータとは
厚生労働省は、かねてより「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」に国民の診療や特定検診に関する情報を格納してきました。NDBの有用性を更に生かすため、国民も利用しやすい形に抽出・加工されたデータが、NDBオープンデータです。
NDBとは
NDBオープンデータの元になっているNDB(National Database)は、平成20年4月に施行された「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づいて、医療費適正化計画の作成・評価を目的に厚生労働省が構築・管理しているデータベースです。
平成23年以降は、医療サービスの質の向上や正確なエビデンスに基づいた施策の策定を目的に、行政機関や研究者、民間事業者に向けて、第三者提供が行われています。NDBに含まれるのは、レセプトの審査を行う審査支払機関に集められた「レセプト情報」と「特定健診・特定保健指導等の情報」です。
レセプト(診療報酬明細書)
レセプトとは、保険医療を行った医療機関が、患者負担分以外の診療報酬を請求するために作成する明細書を指します。現役の所得者が窓口で支払う医療費は、全体の3割なので、残りの7割は医療機関が保険者に対して請求しています。レセプトに含まれるのは、医科・歯科・DPC・調剤の外来・入院に関する以下のような情報です。
- 保険病名
- 検査内容
- 処置内容
- 処方内容
- 費用
医療機関が作成したレセプトは、第三者機関である審査支払機関に送られ、審査支払機関がレセプトのチェックと医療機関への支払を代行しています。NDBには、審査支払機関が所有するレセプトが、月単位で格納されます。ただし、NDBに格納されるのは、電子化・匿名化されたレセプト情報のみであり、紙レセプトの情報は含まれません。
NDBには、全体の90%以上のレセプトが格納されているため、国民の医療の実態を把握するのに有用な情報です。
特定健診・特定保健指導
特定健診・特定保健指導とは、40歳から74歳までを対象に、生活習慣病のリスクを早期発見し、医療機関への受診や保険指導に繋げることを目的にしたメタボ健診です。検診機関で実施された特定健診・特定保健指導の受診情報(問診結果、測定結果、検査結果等)は、審査支払機関へと送られ、審査・支払業務が行われます。
NDBには、審査支払機関が所有する特定健診・特定保健指導の情報が、年度単位で格納されます。NDBに格納される特定健診・特定保健指導の情報は、年間2千万件以上です。
NDBデータとNDBオープンデータの違い
圧倒的な網羅性を誇るNDBのうち、第三者に提供するためにNDBから抽出・加工されたデータが「NDBデータ」です。
NDBデータには個人を特定できる情報が多く含まれているため、申請を行い、審査を通過しなければ、データ提供が受けられません。
また、提供申出者の範囲は、行政機関や都道府県及び市区町村、研究機関、民間事業者等に限定されています。NDBデータの提供を受ける準備を始めてから、実際に提供されるまでに約1年ほど要する場合もあり、利活用するまでの道のりは決して容易ではありません。
その一方、NDBオープンデータは、国民が誰でも自由に利用できるよう、NDBから個人が特定される情報を省いた基礎的な集計表になっています。厚生労働省のホームページで無料公開されており、申請を行う必要もありません。
平成28年に公表された「第1回NDBオープンデータ」を皮切りに、概ね年に1回のペースで更新されています。
NDBオープンデータで公表されている項目
NDBオープンデータは、集計対象や留意事項などが解説された「解説編」と、集計表が掲載された「データ編」に分かれています。令和6年3月時点における最新の「第8回NDBオープンデータ」の集計項目は、以下の通りです。
分類 | 集計項目 | 内容 |
レセプト | 医科診療行為 | 算定回数 |
歯科診療行為 | 算定回数 | |
歯科傷病 | レセプト件数 | |
調剤行為 | 算定回数 | |
薬剤 | 薬効分類3桁毎に処方数量の多い薬剤 | |
特定検診 | 特定保険医療材料 | 特定保険医療材料の数量 |
特定健診(検査値) | 検査値階層別件数 | |
特定健診(標準的な質問票) | 回答件数 |
これらのデータは「都道府県別」「性・年齢別」「二次医療圏別」「診療月別」などで集計されています。また、一部の項目については「都道府県別/性・年齢別」「二次医療圏別/性・年齢別」でクロス集計(※)されており、より詳細な分析が可能です。
※クロス集計:2つ以上の質問をかけ合わせて集計する方法
NDBオープンデータ分析サイトとは
NDBオープンデータはExcelの形式で提供されているため、ITの知識がなければ、分析も容易ではありません。そこで、利用者がNDBオープンデータの情報についての理解を深められるよう、NDBオープンデータをどのように分析できるかを厚生労働省が紹介したサイトが、NDBオープンデータ分析サイトです。
NDBオープンデータ分析サイトでは、診療行為の算定回数や薬剤の処方、治療法や健診結果の検査データを性年齢別、都道府県別、診療月別にグラフで構築したデータが公開されています。NDBオープンデータ分析サイトに示された分析結果を活用し、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査、治療状況を都道府県別に分析した報告があります。
SASに関するNDBオープンデータを用いた分析
SASの診断(と治療に対する効果判定)に用いる検査の実施状況を都道府県別に比較すると、検査数はおおむね人口に比例しすることがわかります。
また、軽症から中等症の治療にはマウスピースが使用されますが、検査数とマウスピースの実施数に矛盾はありませんでした。したがって、医科と歯科の連携が取られていることが推察されます。
一方、中等症以上の患者に対する治療とされているCPAP療法の施行数を合計すると、予想される患者数よりはるかに少ないことも明らかとなりました。未受診の有病者に対する受診喚起が求められると結論付けられています。
このように、NDBオープンデータ分析サイトの解析をもとに、さまざまな疾患に対する医療の現状を分析することができます。
NDBオープンデータを活用した論文の例
NDBオープンデータは日本の医療に関するビッグデータとして有用な情報です。分析が難しい場合は、NDBオープンデータ分析サイトを参考にすると良いでしょう。実際に、NDBオープンデータを活用した例として、以下のような論文が発表されています。
日本におけるCT利用のパターン 全国横断的研究
日本のCTスキャナーの保有率は世界有数の高さです。
そのような中、NDBオープンデータにより、CTの利用状況を横断的に記述した論文があります。
論文によると、日本の年間CT検査率はCTスキャナーの保有率と同様高いのですが、CT検査率は年齢、性別、および地域によって異なり、地域差は最大1.7倍です。
また、CT検査率は老化率に関連していることが述べられています。
さらに、地域差も老人の割合の高さに依存している可能性がある、と考察されています。
NDBを活用した日本の骨粗鬆症治療の現状についての論文
骨粗しょう症は骨折するまで自覚症状がないため、適切な時期に治療を開始しているかどうかが重要です。そこで、ビッグデータであるNDBオープンデータから日本の骨粗しょう症治療の現状を検討した論文があります。
論文の目的は、骨粗しょう症の治療薬の使用パターンと傾向を、性別と年齢層別に分析することです。
薬剤の処方数と処方日数を患者数と治療数を計算し、年齢と性別で層別化して分析した結果、女性の有病率は男性の3倍と言われているにもかかわらず、治療の男女比は男性が女性の10分の1でした。
したがって、男性の骨粗しょう症治療が不十分である可能性が高いと述べられています。
喫煙・禁煙に関連する項目を用いた都道府県比較
この論文では、NDBオープンデータに含まれる喫煙・禁煙に関連する項目を用い、既存の公的統計と比較し、喫煙率等の都道府県比較を行っています。
喫煙者数の参照元は、NDBオープンデー タの特定健診の問診票のデータです。
例えば、喫煙者に対する「ニコチン依存症管理料(初回)」の 件数の比を分析することで、禁煙指導のありかたについて分析しています。
その結果、全国合計では喫煙者1,000人あたりニコチン依存症管理料を10.4回算定していました。
つまり、実質1 年に喫煙者100人に 1 人しか禁煙外来を使って禁煙開始していないことを示しています。
国民栄養調査によると、喫煙者のうち、たばこを辞めたいと思う人の割合は3割に上るとされているため、禁煙支援サービスのさらなる充実が求められる、と述べられています。
NDBオープンデータを利用した論文を参考に、データ活用しよう
NDBオープンデータを利用した論文は多数あり、オープンデータとほかの既存のデータや調査結果を組み合わせることで、より多角的な分析ができます。
NDBオープンデータは、日本の医療状況を網羅的に反映した貴重なデータのため、有用なエビデンスです。
医療や公衆衛生、人々の生活にかかわる多様なデータとして、現状の問題点の把握やニーズの掘り出しが行えます。厚生労働省のホームページから誰でも自由に取得できる上に、分析例が示されたNDBオープンデータ分析サイトも存在します。
NDBオープンデータを、ぜひビジネスにも活用してみてください。
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