医療ビッグデータとは?活用事例や分析方法を分かりやすく解説
目次
- 1. 医療ビッグデータの定義と種類
- 1.1 医療ビッグデータとは
- 1.2 医療ビッグデータの種類
- 2. 医療ビッグデータを活用する3つのメリット
- 2.1 病気の早期発見や予防に役立つ
- 2.2 新たなビジネスモデルを創出できる
- 2.3 医療需要の高い分野を特定できる
- 3. 医療ビッグデータの現状と今後
- 3.1 健康に関するビッグデータの概要と課題
- 3.2 病気に関するビッグデータの概要と課題
- 3.3 医療ビッグデータの未来
- 4. 医療ビッグデータの活用事例
- 4.1 医療機関における医療ビッグデータの活用事例
- 4.2 企業における医療ビッグデータの活用事例
- 4.3 患者数の多い疾患の予防策提供
- 5. 医療ビッグデータの入手方法
- 6. 医療ビッグデータを扱う上での注意点
- 6.1 個人情報を匿名化する
- 6.2 著作者の許諾を得る
- 7. まとめ
国民の健康や病気、治療などに関する膨大なデータの集まりである医療ビッグデータ。医療機関・薬局が保有する患者情報や、個人のデバイスに収集された健康情報などによって、膨大な数の医療ビッグデータが日々蓄積されています。
厚生労働省が推進する「データヘルス改革」は、医療ビッグデータを活用し、より効果的・効率的な医療サービスの提供を実現することを目的とした政策です。国や地方自治体だけでなく、医療機関や民間企業が医療ビッグデータを活用することで、疾病の予防や早期発見、より効果的な医療サービスの提供が可能になります。こうした取り組みが、結果として国民の健康寿命のさらなる延伸につながると期待されています。
この記事では、医療ビッグデータとはどんな情報かについて解説します。
医療ビッグデータを活用するメリットや注意点、活用事例も掲載しているので、医療ビッグデータを経営改善や営業戦略に活かしたい方は、ぜひ参考にしてください。
医療ビッグデータの定義と種類

様々な分野でも注目されている「ビッグデータ」とは、Volume(データ量)・Variety(データの種類・多様性)・Velocity(データの処理速度)の全てを備えたデータのことです。医療分野におけるビッグデータの定義と種類について、紹介します。
医療ビッグデータとは
近年、情報通信技術(ICT)が進歩したことに伴い、医療分野においても医療情報が電子化され、蓄積されるようになりました。医療ビッグデータとは、医療機関や国、地方自治体などが蓄積している、人の健康や病気、治療等に関するビッグデータを指します。
医療ビッグデータは今、ITが進化して解析性能が向上したことで、新しい治療法や新薬の開発に活用できるようになり、世界中で医療の向上に役立てられています。その一方で、以下のような課題があるのも事実です。
- 強固なセキュリティ対策が必要
- ビッグデータを分析するための高度なIT人材が必要
データの中にはプライバシーな個人情報が含まれている場合もあります。複数の情報を組み合わせることで、個人の特定にも繋がりかねません。そのため、医療ビッグデータを扱う際には、強固なセキュリティ対策を行い、情報セキュリティに関する教育も徹底する必要があるでしょう。
また、医療ビッグデータのように膨大かつ粒度の細かい複雑なデータを効率よく活用するには、医療に関する専門知識を有しているだけでなく、分析する技術を持ったIT人材も欠かせません。
医療ビッグデータの種類
医療ビッグデータには、診療や健診、診療報酬請求などの「業務」から蓄積されたデータや、個人のデバイスによって測定されたデータなどが含まれます。医療ビッグデータの主な種類は、以下のとおりです。
- 診療報酬明細書データ(レセプトデータ)
- 電子カルテに記録された診療データ
- 特定の疾患に関する臨床データ
- 薬局における調剤データ
- 健診データ(一般検診、特定検診)
- 診断群分類(DPC)データ
- 機器で人の行動を記録した情報(心拍数、血圧、歩数など)
- 遺伝子情報(ゲノム情報など)
- 国保データベース(KDB)内のデータ(国民健康保険団体連合会が管理・運営する健診、医療、介護の各種データ)
これらのデータは、医療ビッグデータのほんの一例に過ぎません。その他にも、厚生労働省や地方自治体が調査を行い、公開している医療オープンデータも、医療ビッグデータに含まれます。医療ビッグデータの全容を図にまとめました(図1)。

図1:医療ビッグデータの全容
医療ビッグデータと医療オープンデータの違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。
◆ビッグデータとオープンデータの違いとは?
医療ビッグデータを活用する3つのメリット

医療ビッグデータを活用するメリットは、医療に携わるステークホルダー(企業やプロジェクトに直接または間接的に影響を与える利害関係者)によって異なります。一般企業や医療機関が医療ビッグデータを活用するメリットは、以下のとおりです。
病気の早期発見や予防に役立つ
医療ビッグデータを分析することで、特定の病気を患っている患者の症状パターンから、発症リスクを予測できます。また、画像診断の結果をAIによって分析することで、人の目では見落としがちな病変も明らかにできる可能性が高まるでしょう。
さらに、バイタルや血圧といった体の状態から、生活習慣病のリスクを測定し、予防策に繋げることも可能です。患者の病気の早期発見や予防の精度が上がることで、患者からの信頼を得られ、病院経営の利益向上が期待できます。
新たなビジネスモデルを創出できる
蓄積された膨大な患者の情報を分析することで、新たなビジネスモデルを創出できる可能性があります。複数の医療ビッグデータを組み合わせて分析することで、より精度の高い患者向けのアプリの開発や、医療機関向けの情報提供などです。
他のビッグデータと比較しても、医療ビッグデータは項目数が多く、機密性が高いことから、分析するには高度なIT知識と医療知識を要します。そのため、医療ビッグデータの分析によって生まれるビジネスモデルは、競争が少ない市場になりえるのです。
医療需要の高い分野を特定できる
診療を受けている患者の傾向を捉えることで、医療需要の高い分野の特定に繋がります。患者の性別や在住地、疾患、年齢などの情報を複合的に分析することで、利益の向上が見込めるターゲット層をより詳細に絞り込めるようになるでしょう。
また、既存のビジネスモデルのターゲット層における医療需要の高さを判定する際にも、医療ビッグデータは活用できます。医療ビッグデータを活用し、国民の動向を捉えることは、企業や医療機関の指針を定める上で重要です。
医療ビッグデータの現状と今後
医療ビッグデータは、医療の質向上や医療費適正化、予防医療の推進など、さまざまな分野で活用が期待されています。しかし現状では、制度や管理主体の違いによりデータが分断され、十分に活用されているとは言えません。
医療ビッグデータの現状と今後について、詳しく見ていきましょう。
健康に関するビッグデータの概要と課題
健康に関するビッグデータは、生後から高齢期に至るまでのライフステージを横断的に把握できる有益なデータです。内容は、母子健康情報や学校検診情報、特定健診、要介護認定情報など多岐にわたります。
一方で、根底にある法律・制度、所轄官庁等が異なるために、一元管理できていない点が大きな課題です。本来は「線となる情報」にも関わらず、「点の情報」で各々存在している現状があります。
また、紙ベースの記録が未だ残っており、一部がデータベース化されていないのも問題点と言えるでしょう。紙ベースの記録はデータベースと連携できず、検索・集計・分析が困難です。その結果、医療ビッグデータとして本来期待される活用が十分に行えません。
病気に関するビッグデータの概要と課題
病気に関するビッグデータは、主に医療現場(病院やクリニック等)における患者記録を基にしています。大きな課題は、カルテ情報がデータベース化する前に消失するリスクをはらんでいる点です。電子カルテの導入を行っていない病院では、未だ紙で管理されています。
また、カルテの保存期間が5年間なので、期限が切れたカルテの中には処分されているものもあるでしょう。病気に関するデータの共有が進展していない点も問題です。
患者個人に一意となるIDが付与され、クラウド上にデータを転送できれば、受診した場所や時間に限定されず、リアルタイムでデータ共有が可能になるでしょう。
医療ビッグデータの未来
高齢化社会の進展によって、医療ニーズは年々増大していくことが予想されています。一元管理、データベース化、相互データ共有等の問題点を解消し、医療ビッグデータの活用がさらに促進されれば、病気の早期発見や高精度な診療が実現するでしょう。
膨大な患者データを分析すると、病気の発生傾向やリスク要因の発見につながります。また、医師が統計や検査記録を瞬時に参照できれば、患者の状態を総合的に判断し、正確な診療が可能です。医療ビッグデータは、現代医療において欠かせない存在と言えるでしょう。
医療ビッグデータの活用事例

医療ビッグデータは、医療の質向上や業務効率化、サービス開発など、様々な分野で活用が進んでいます。医療機関と企業における医療ビッグデータの活用事例を見ていきましょう。
医療機関における医療ビッグデータの活用事例
医療機関による医療ビッグデータの活用方法を紹介します。
患者一人ひとりへの最適な医療の提供
医療ビッグデータから患者の状態や症状を分析することによって、患者一人ひとりの病態や体質に合った治療法を提案できるようになります。また、現在の患者の状態から、今後発症しうる病気を予測し、予防することも可能です。
患者一人ひとりに合わせた治療が行えるようになるため、医療の質の向上や患者満足度の向上にもつながります。
新たな治療方針の考案
診療科が異なる病気の関連性を分析することで、相乗効果が期待できる新たな治療方針を考案できる可能性があります。
例えば、糖尿病と歯周病の発症は相関関係があるとされていますが、糖尿病は内科の医師が治療し、歯周病は歯科医師が治療するのが一般的です。
そこで、糖尿病患者の診療データと歯周病に関する診療データを組み合わせて分析することで、歯周病治療を行うことで、糖尿病患者の症状が緩和したり、糖尿病発症のリスクが下がったりするエビデンスを見つけられる可能性があります。医療ビッグデータから導き出したエビデンスを基に、内科と歯科が合同で治療にあたる新しい治療方針を考案できるかもしれません。
診療・検査データ分析による外来業務の効率化
外来診療では、受付から診察、検査、会計まで多くの工程が発生します。医療ビッグデータを用いて各工程の所要時間や患者の動線を分析することで、ボトルネックを特定できます。
例えば、検査待ちが集中する時間帯を把握できれば、人員配置や検査順の調整が可能です。その結果、患者の待ち時間短縮だけでなく、医療従事者の業務負担軽減にもつながります。
企業における医療ビッグデータの活用事例

医療関連企業による医療ビッグデータの活用方法を紹介します。
最先端の画像分析による病巣検出システムの提供
ビッグデータの利活用では、AI(人工知能)が使われています。この動きは医療ビッグデータの領域でも始まっており、大量の検査済画像をAIに学習させると、AIが画像の特徴を学習することで、病変の可能性がある領域を検出し、医師の診断を支援できるようになります。
この機能を診療支援システムに組み込むことで、医師の診療をサポートできます。目視での見逃しを防止し、医療の質向上に繋がるため、医療機関の導入メリットは大きいでしょう。
まずは、医療ビッグデータからCTやMRIといった画像診断の件数が多い医療機関を特定することで、診療支援システムの導入ニーズが高い施設を効率的に把握できます。
医薬品の安全性向上
医療ビッグデータは新しい医療ビジネスをつくるだけでなく、既存の医療の安全性を高めることにも使えます。
例えば、製薬メーカーが医薬品の副作用についてのビッグデータを分析すれば、副作用の発生に関わる患者や医薬品投与の傾向が把握できます。
分析結果は添付文書の改訂や安全性情報の提供などに活用され、より安全な医薬品の使用につながります。
医療機器メーカーの営業効率向上
医療ビッグデータの一つである病床機能報告データを使うことで、医療機器メーカーの営業リスト作成に役立ちます。
病床機能報告とは、一般病床・療養病床を有する病院または診療所が担っている医療機能についての調査結果です。
病院の病床機能(病院が担っている病棟単位の医療機能)が分かれば、必要としている機器が推測できるようになるでしょう。そして、医療機器メーカーの営業担当者は、効率よく営業を進められます。
ウェアラブルデバイスから心疾患のリスク評価
心疾患は突然発症することが多く、早期発見が非常に重要です。ウェアラブルデバイスを提供する事業者であれば、日常生活の中で心拍数やストレスレベル、血圧、血中酸素濃度などの医療ビッグデータを収集し、心疾患のリスクを評価できます。
特に、AIを活用したデータ分析により、心疾患のリスクを高精度で予測し、発症前に医療機関での診察を促せるようになります。不整脈や心房細動の検出に役立つ機能が搭載されたデバイスは、高齢者や持病のある方にとっては需要が高く、大きな利益につながるでしょう。
患者数の多い疾患の予防策提供
医療ビッグデータから地域や性別、年齢、体重などの属性別に疾患の発症率を特定できれば、ユーザーの属性で発症率が高い疾患の予防策を提示するシステムを開発できます。例えば、医療ビッグデータの一つである患者調査で分かる主な内容は、以下のとおりです。
- 男女・傷病分類別の患者数
- 二次医療圏・傷病分類別の患者数
- 年齢階級別・傷病分類別の患者数
ユーザーが男女区分・年齢・所在地を入力するだけで、該当する属性で最も発症率の高い上位の疾患を表示し、予防策まで提示します。ユーザーに焦点を当てた詳しい予防策を示せるので、健康意識の高い人にとっては需要が高く、利益の向上が見込めるでしょう。
医療ビッグデータの入手方法
医療ビッグデータには、企業が独自に蓄積しているデータや、医療機関が記録する診療データなど、さまざまな種類があります。また、国や地方自治体が収集・公開しているデータも医療ビッグデータの一つです。こうした行政が公開しているデータは「医療オープンデータ」と呼ばれ、民間企業や医療機関でも比較的容易に利用できます。
医療オープンデータは、厚生労働省や地方自治体が全国を対象に調査した集計データで、情報の多さと信頼の高さが魅力です。
主な医療オープンデータの内容と入手先のリンクを紹介します。
| 医療オープンデータ | 内容 |
| NDBオープンデータ | NDBデータから作成した汎用性の高い基礎的な集計表 |
| 病床機能報告データ | 医療機関が病棟単位での医療機能を各都道府県に報告し、厚生労働省が集計したデータ |
| 医師・歯科医師・薬剤師統計 | 医師、歯科医師及び薬剤師について、性、年齢、業務の種別、従事場所、診療科名等による分布のデータ |
| 患者調査 | 全国の医療施設を利用する患者データ |
| 医療施設調査 | 医療施設の分布及び整備の実態に関するデータ |
| 国民健康・栄養調査 | 身体状況、栄養摂取量、生活習慣の状況に関するデータ |
| 人口動態調査 | 出生、死亡、婚姻、離婚、死産に関するデータ |
| 感染症発生動向調査 | 感染症法に規定された疾患に関するデータ |
医療ビッグデータを扱う上での注意点
ビジネスや病院経営など、あらゆる場面で活躍する医療ビッグデータですが、使用する際には以下の注意点に留意してください。
個人情報を匿名化する
医療ビッグデータはメリットが多い反面、個人情報を多く含むため、個人が特定できる情報が漏洩し、悪用される危険があります。万が一、個人情報が特定されてしまうと、 不当な差別や偏見にも繋がりかねません。
そのため、医療ビッグデータを扱う際は、個人が特定されないように匿名化の対策を施すよう注意してください。また、保持している医療ビッグデータが流出しないよう、セキュリティ対策も万全にしておく必要があります。
著作者の許諾を得る
医療ビッグデータを無断で二次利用した場合は、著作権侵害に該当する可能性があります。特に事業者が編集を行った創造性を有するデータは、データベースの著作物です。医療ビッグデータを二次利用する前に、必ず著作者の許諾を得てください。
著作物を無断で使用すると、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金が課せられる恐れがあります。ただし、医療ビッグデータの中でも、匿名化の加工が施され、二次利用が許可された医療オープンデータであれば、著作権侵害に抵触しません。
医療オープンデータは、無料で取得してすぐに二次利用できる上に、機械判読に適したデータ形式であるため、低コストで高精度な分析が可能です。国や地方自治体等がホームページで公開しているため、ぜひ探してみてください。
まとめ
この記事の内容を箇条書きでまとめます。
- 医療ビッグデータとは、国民の健康や病気、治療などに関する膨大なデータの集まり
- 医療ビッグデータの種類には、レセプトデータ、診療データ、臨床データ、調剤データ、DPCデータ、遺伝子情報などがある
- 医療ビッグデータを活用することで、患者の病気の早期発見や予防に役立つ
- 医療ビッグデータを扱う際は、情報セキュリティや個人情報保護に注意する
- 医療機関が医療ビッグデータを活用すると、患者一人ひとりに最適な医療を提供できる、新たな治療法の考案に繋がる
- 医療関連企業が医療ビッグデータを活用すると、新しい医療ビジネスを創出できる、エビデンスに基づいた営業活動が可能になる
政府も医療ビッグデータの利活用を推進しており、これにより医療の質の向上や医療需要の把握などが期待されています。医療機関や医療関連企業にとっても、医療ビッグデータは今後の医療サービスやビジネスの発展に重要な役割を果たすでしょう。
<医療系オープンデータ>
弊社では、医療系オープンデータとして
・医療機関マスタ(医科、歯科、薬局)
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