地域医療構想とは?病床機能報告との関係やオープンデータを使った考察について解説
目次
- 1. 地域医療構想とは?
- 1.1 地域医療構想における4つの病床機能区分
- 1.2 病床機能報告の役割
- 1.3 地域医療構想調整会議の役割
- 2. 地域医療構想とオープンデータの密接な関係
- 3. 地域医療構想の実現に用いられるオープンデータ
- 3.1 医療の実態や特定健診結果「NDBオープンデータ」
- 3.2 各病院が担う医療機能「病床機能報告データ」
- 3.3 DPC算定の結果「DPCデータ」
- 3.4 将来の人口予想「将来人口推計」
- 4. オープンデータを使用した地域医療構想実現のための考察
- 4.1 NDBオープンデータを用いた医療需要予測
- 4.2 病床機能報告データを用いた病床数の実態と必要数把握
- 5. オープンデータを現状把握・医療需要推定に活用する上での課題
- 5.1 NDBオープンデータにおける課題
- 5.2 病床機能報告データにおける課題
- 6. 地域医療構想の実現に向けたまとめ
団塊の世代が75歳以上となる2025年までに高齢者の割合は急速に増加することが予想されています。そこで、地域住民に必要な医療を提供する体制を整備するための取り組みである「地域医療構想」が重要な要素になってきます。
地域医療構想を実現するためには、厚生労働省が公表している病床機能報告の報告結果などのオープンデータの活用が重要な役割を担います。
「地域医療構想とは?」
「地域医療構想を実現するためにどのような進め方がされている?」
「病床機能報告とは何か知りたい」
この記事では、上記のようなお悩みをお持ちの方に向けて、地域医療構想、病床機能報告の内容や実際に活用されているオープンデータについて、わかりやすく解説していきます。最後まで読むことで、地域医療構想の全容が理解でき、活用されているDPCデータや病床機能報告データを入手することができますよ。
地域医療構想とは?
2000年から増加傾向にある75歳以上の高齢者は、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて急速に増加することが予測されています。それに伴い、64歳以下の世代の人口は減少し、いわゆる少子高齢化が進んでいきます。
この高齢化が最大となる2025年までに、地域の医療資源を活用し、効率的かつ適切な医療が提供できる体制を整備することを目的とした取り組みが「地域医療構想」です。
地域医療構想は、医療の地域格差を解消し、地域住民が適切な医療を受けられるようにするために、地方自治体が策定することが一般的です。地域医療構想は、地域の医療を維持・改善するための重要な取り組みであり、地域住民の健康と生活の質を向上させることにつながります。
地域医療構想は、その実現のために下記のプロセスで進んでいきます。
- 地域医療の現状と今後の需要を把握する
- 地域医療構想調整会議において、地域の特性に応じた施策を検討する
- 地域医療構想調整会議において、各関係者の合意を取り施策を実行に移す
地域医療構想における4つの病床機能区分
地域医療構想では、次の4つの病床機能区分を設け、機能ごとに2025年の医療需要(推計入院患者数)を推計しています。推計方法は「地域医療構想策定ガイドライン」に記されている通り、4つの病床機能を医療資源投入量(出来高点数)によって区分しています。
急性期:急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能。
回復期:急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能。
慢性期:長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能。
地域医療構想では、推計した医療需要(推計入院患者数)をもとに2025年における病床の必要量(必要病床数)も推計しています。
病床機能報告の役割
病床機能報告制度は、2014年(平成26年)10月1日に施行された制度で、一般病床・療養病床を有する病院又は診療所が担っている医療機能を病棟単位に4つの病床機能区分から一つを選択し、都道府県に報告し、都道府県が公表するものです。
実際の病棟には、選択された病期以外のさまざまな病期の患者が入院していることから、病棟単位で最も多くの患者の割合を占める医療機能を、各病院が医療機能を選択する際の判断基準としています。
病床機能を公表することにより、以下のメリットがあります。
- 地域の医療機関や住民等が、地域の医療提供体制の現状と将来の姿について共通認識を持てる
- 住民が医療機関を選択する上での情報源になることで、医療機関の情報公開を促進する
- 医療機関の特性や強みが把握できるため、地域医療の充実や医療機関の連携強化につながる
地域医療構想調整会議の役割
地域医療構想調整会議とは、地域医療構想の策定や見直しのために、地域の医療関係者や自治体、保険者、患者会などが参加して議論を行う会議のことです。
具体的には、地域の医療ニーズや医療機関の病床機能、医療機器や人材の配置、医療機関の連携やネットワークの構築などについて議論し、地域医療構想を策定・見直しする上で必要な情報を収集・共有します。
「地域医療構想策定ガイドライン」では、地域医療構想調整会議の議題について、以下のように定められています。
- 地域の病院・有床診療所が担うべき病床機能の協議
- 病床機能報告制度による情報共有
- 都道府県計画に盛り込む事業の協議
- その他の地域医療構想を達成させるための協議
地域医療構想とオープンデータの密接な関係
オープンデータとは、政府や自治体が保有するデータを一般の人が自由に利用できるように公開したもので、各分野で重要な役割を担っています。
地域医療構想の策定・見直しにおいては、地域の医療・保険に関するデータが必須です。
たとえば、地域の医療機関の施設情報や医師の数、診療科目、受診件数、治療効果など、オープンデータの活用により、必要な情報を容易に収集・分析することができます。
地域医療構想の実現に用いられるオープンデータ
数あるオープンデータの中でも、地域医療構想における地域医療の現状把握や医療需要の推定のために用いられているデータは限られています。実際に地域医療構想の実現のために用いられているオープンデータをご紹介します。
医療の実態や特定健診結果「NDBオープンデータ」
2009年に厚生労働省は、レセプト情報ならびに特定健診・特定保健指導情報を収集した「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」を構築しました。医療の実態や特定健診の結果等を、国民に解りやすく示した統計資料が NDB オープンデータとなり、2016年から毎年公開されています。
NDBオープンデータは厚生労働省HPのこちらから参照できます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177182.html
これにより、年間の都道府県の各診療行為別の発生数、患者の流入数を把握可能になりました。診療行為別に各医療圏での医療機能が十分かどうかを判断するのに役立っています。
下記は実際のNDBオープンデータの一部ですが、北海道の初診料が約676万回算定されていることが分かります。(令和2年度)
実際のNDBオープンデータ
各病院が担う医療機能「病床機能報告データ」
先述しました医療機関から都道府県に報告された、有する病床(一般病床及び療養病床)が担う医療機能に関するデータです。昨今の厚生労働省の動きとして、オンライン利用の促進(電子化)に力を入れています。
そのため、紙媒体で病床機能報告を行っている医療機関については、2021年度から電子による報告を促しつつ、2022年度を目途に「電子媒体による報告」を原則とし、やむを得ない事情がある場合に限り、紙媒体による報告を可能とする方針になります。これによって、より効率的に病床機能報告データの分析が可能となります。
弊社では、活用しやすいよう加工した【病床機能報告データ】を提供しています。
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DPC算定の結果「DPCデータ」
DPC対象病院の中で、DPC算定をした結果に関するデータです。DPCとは、大規模病院において一定の診療行為のセットを包括的に算定できる制度のことで、診療行為ごとの算定である出来高制と対になります。DPCデータには患者の診療録、施設情報、DPCレセプト情報などが含まれます。
入院患者の入院時から退院時の状態、診療行為、使用された薬剤、点数など、豊富な情報を確認することができるのがDPCデータの特徴です。
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将来の人口予想「将来人口推計」
ある時点の人口を基にして将来の人口を予想したデータを将来人口推計といいます。国立社会保障・人口問題研究所の国勢調査によって推計されたものや、各自治体が住民基本台帳人口を基に推計したものがあります。
将来人口推計を用いることで、地域の高齢化率や人口密度を分析できます。
オープンデータを使用した地域医療構想実現のための考察
地域医療構想においては、複数のオープンデータを複合的に分析し、地域医療の需要を推定しています。実際にオープンデータを分析することで、どのような考察ができるのか具体例を挙げて見ていきたいと思います。
NDBオープンデータを用いた医療需要予測
国立社会保障・人口問題研究所が公開している「地域別将来推計人口」と NDB オープンデータを照らし合わせることにより、将来の診療行為別の医療需要を予測することができます。
具体的には、 NDB オープンデータから特定の診療行為の地域別の算定回数を取得し、地域別将来推計人口の地域別の人口推移と比較することにより、「地域Aは将来的に人口が増加傾向にあるから、診療行為aが算定回数もこのくらい増加する」といったことが考察できます。
病床機能報告データを用いた病床数の実態と必要数把握
病床機能報告された病床機能の病床数とNDBオープンデータ内の各機能で実施すべき診療行為の算定状況から、算定状況に適した病床数が確保されているかを分析することができます。
さらに将来推計人口を用いることで、「2025年には地域Aの急性期に関する診療行為aの算定が増加する予測のため、病床数はこれだけ増やす必要がある」といったことが考察できます。
オープンデータを現状把握・医療需要推定に活用する上での課題
現在のオープンデータに見られる課題点をご紹介します。厚生労働省や各自治体が2025年に向けてオープンデータの課題解決に取り組んでいるため、さらなる発展に期待したいです。
NDBオープンデータにおける課題
- 全国の各診療行為の発生数を都道府県別または性・5歳階級別に集計したデータであるため、各市町村(二次医療圏)の各診療行為の発生数が分からない
- 労災や自賠責、自費部分などの自由診療に係るデータがNDB に収集されていない
病床機能報告データにおける課題
- 医療機関が未報告のデータを把握できない
- 個人情報保護の観点から,10未満の数値は非公開となっている
- 患者住所地等の地理情報を含んでいないため、その地域の移住者に対する診療かどうかを判断できない
地域医療構想の実現に向けたまとめ
2025年までに予想される高齢化社会に向けて、地域医療構想を実現するため、政府や各自治体、医療機関が連携して様々な取り組みを実施していることが分かりました。
最後に、この記事で解説した内容をまとめます。
- 「地域医療構想」とは、高齢化が最大となる2025年までに、効率的かつ適切な医療が提供できる体制を整備することを目的とした取り組み
- 病床機能を公表することにより、医療機関の特性や強みが把握できるため、地域医療の充実や医療機関の連携強化につながる
- オープンデータを活用することで、地域の医療・保健に関するデータを容易に収集・分析することが可能になる
- オープンデータにはまだまだ課題点が残っている
皆さんが住んでいる地域が地域医療構想の実現に向けてどのような取り組みを行っているのかに興味を持ち、認識を深めて周りに共有することで、現状の課題解決に貢献できます。
来たる高齢化社会において、患者が適切な医療を受けられ、医療従事者がストレスなく診療行為を行える未来を願っています。
<医療系オープンデータ>
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