介護保険事業状況報告とは オープンデータの特徴や活用方法を解説
目次
日本の高齢者人口は、年々上昇傾向にあります。一方で、総人口は減少傾向にあるため、高齢者と暮らす家族の負担は増大しているのが現状です(※1)。日本では、高齢者の介護にかかる経済的な負担を軽減するための仕組みとして、介護保険制度があります。
要介護状態または要支援状態になった65歳以上の方は、介護保険制度によって、本来かかる費用の1割~3割の負担額で介護サービスを受けられます。その介護保険制度を円滑に運用するため、厚生労働省が実施している調査が「介護保険事業状況報告」です。
本記事では、介護保険事業状況報告の特徴について解説しています。
オープンデータの活用方法も掲載しているので、病院経営や事業に取り入れたい方はぜひ参考にしてください。
※1参考:令和6年版高齢社会白書
介護保険事業状況報告とは?
厚生労働省が毎年実施する介護保険事業状況報告とは、全国で行われている介護保険事業の状況を把握するための調査です。今後の介護保険制度を円滑に運用するための基礎資料を得ることを目的としています。
調査対象は、全国で介護保険サービスを給付している保険者(市町村および特別区)です。保険者は都道府県を介して、厚生労働省から配信された様式に記入し、返信しています。
介護保険事業状況報告の調査結果を正確に分析するためには「介護保険制度」「介護保険事業」の理解が欠かせません。それぞれの内容について説明します。
介護保険制度
介護保険制度とは、高齢者の介護に係る家族の負担を軽減し、社会全体で介護を支えるための公的保険制度を指します。多くの人に馴染みがある医療保険では、各企業で設立する健康保険組合や全国健康保険協会が保険者にあたりますが、介護保険の保険者は市町村と特別区 (東京都に存在する23の区)のみです。
40歳以上になると介護保険への加入が義務付けられ、保険料を納付します。介護が必要になった被保険者は、前年度の所得に応じて1割〜3割の費用負担で介護サービスを受けられるようになります。
介護保険事業
全国で介護保険の給付を受けられる事業所・施設が展開する介護サービス事業を「介護保険事業」と呼びます。介護保険事業では、大きく分けて以下の2種類のサービスが提供されています。
介護給付:要介護1~5と認定された方が利用できるサービス
予防給付:要支援1~2と認定された方が利用できるサービス
予防給付では、心身の補助が必要になり始めた方が要介護状態になることを予防するのが目的です。一方の介護給付は、入浴や食事といった日常生活で介護を要する方のサポートを目的としています。介護保険事業における具体的なサービスの例を見ていきましょう。
分類 | サービス名 | 内容 |
【居宅サービス】 自宅で生活しながら受けられるサービス |
訪問介護 | 訪問介護員が、入浴、排せつ、食事などの介護や調理、洗濯、掃除などの家事を行う |
通所リハビリ | 施設や病院などでリハビリテーションを行い、利用者の心身機能の維持回復を目指す | |
【地域密着型サービス】 地域の特性を活かしたサービス |
小規模多機能型居宅介護 | 施設への「通い」を中心に短期間の「泊まり」や、自宅への「訪問」を組み合わせて、生活の支援や機能訓練を行う |
認知症対応型通所介護 | 認知症の方が自宅で自立した生活を送れるように、機能訓練やレクリエーションを行う | |
【施設サービス】 施設に入所した方が受けられるサービス |
介護老人福祉施設 | 社会福祉法人や地方自治体が運営する常時介護が必要な方向けの施設(特別養護老人ホーム)で、生活の支援や機能訓練を行う |
介護老人保健施設 | 病院での入院治療を終えた方が、リハビリを行う施設で、リハビリテーションや必要な医療、介護などを行う |
上記のサービスはほんの一例に過ぎず、さらに細分化されて公表されている限りでは全26種類54のサービス が存在します。介護保険事業状況報告では、各サービスの受給者数や給付費などが集計されています。
介護保険事業状況報告の公開内容
介護保険事業状況報告の調査結果は、毎月の暫定版である「月報」と1年分を集計した「年報」の2種類です。いずれも厚生労働省のホームページに無料で公開されているため、誰でも自由に利用できます。
介護保険事業状況報告で公開されている主な内容は、以下のとおりです。
分類 | 項目 |
一般状況 | ・第1号被保険者のいる世帯数 ・第1号被保険者数 ・要介護(要支援)認定者数 ・第1号被保険者に占める認定者の割合 ・居宅介護(介護予防)サービス受給者数 ・地域密着型(介護予防)サービス受給者数 ・施設介護サービス受給者数 |
保険給付(介護給付・予防給付) | ・総数 ・都道府県別 居宅サービス、地域密着型サービス、施設サービス別の給付費割合 ・第1号被保険者1人あたり給付費 ・第1号被保険者分 ・第1号被保険者の2割負担対象者分 ・第1号被保険者の3割負担対象者分 ・第2号被保険者分 ・高額介護(介護予防)サービス費 ・高額医療合算介護(介護予防)サービス費 ・特定入所者介護(介護予防)サービス費 ・市町村特別給付 |
第1号被保険者の保険料収納状況 | 都道府県別保険料収納状況(現年度分) |
介護保険特別会計経理状況 | 介護保険特別会計経理状況(保険事業勘定・全国計) |
介護保険事業状況報告の活用方法2選
介護保険事業状況報告の結果は、都道府県別や要介護(要支援)状態区分別、サービス別にまとめられているため、より詳細な分析が可能です。また、受給者数の年次推移を見れば、近年需要が高まっているサービスも特定できるでしょう。
介護保険事業状況報告の主な活用方法は、以下のとおりです。
【企業】新たに起業する介護事業の方針を定める
介護事業の起業を検討している方は、介護保険事業状況報告を活用して、大きな利益が見込めるサービス形態や対象者を絞り込めます。
サービス別受給者数では、居宅サービス・地域密着型サービス・施設サービスごとに要介護(要支援)状態区分別の受給者数が集計されています。
例えば、令和3年度介護保険事業状況報告(年報)によると、福祉用具貸与のサービスが上位の受給者数を記録しました。福祉用具貸与とは、利用者が自宅で自立した日常生活を送れるように、適切な福祉用具を貸与するサービスです。
また、福祉用具貸与を受けている方の中でも、要介護2(自分で立ったり、歩いたりが困難)の受給者が最も多いことが分かります。これらの情報から、多くの顧客獲得が期待できる事業として「歩行を支援する福祉用具のレンタルサービス」が見えてくるでしょう。
【病院】開業先にふさわしい地域や条件を選定する
高齢者が多く住んでいる地域は、医療需要が高い地域と言えます。介護保険事業状況報告の「都道府県別 第1号被保険者に占める認定者の割合」を用いると、47都道府県別に認定者や第一号被保険者の数が分かるので、開業先にふさわしい地域の選定が可能です。
また、都道府県別・要介護(要支援)状態区分別の認定者の割合も可視化されています(※2)
※2参考:令和3年度 都道府県別 第1号被保険者に占める認定者の割合
要介護状態にある方は、自力で病院に足を運ぶのが難しいです。そこで、自力歩行が難しくなる要介護2以上の方が多い地域では、以下のような病院の需要が高いと言えるでしょう。
- 訪問診療(医師が自宅に訪問して診療を受けられる)を導入した病院
- オンライン診療(自宅にいながら診療を受けられる)を導入した病院
- 駅に近く、バリアフリー設備が整った病院
さらに、厚生労働省が公開する「患者調査」では、年齢階級別・傷病分類別の推計入院患者数が分かります。第一号被保険者に該当する65歳以上の高齢者が多く患っている傷病分類が特定できれば、患者の流入が見込める診療科や診療内容を選定できるでしょう。
介護保険事業状況報告と患者調査を組み合わせて、高齢者に特化した病院の最適な開設条件を分析してみてください。
まとめ
介護保険事業状況報告とは、厚生労働省が毎年実施している、全国で行われている介護保険事業の状況に関する調査です。都道府県別や要介護(要支援)状態区分別、介護サービス別に被保険者数や認定者数がまとめられています。
介護保険事業状況報告のオープンデータを、ぜひ事業や病院経営に役立ててみてください。
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