医療施設調査とは オープンデータの特徴や活用方法を解説
目次
今回は「医療施設調査」についてご説明いたします。医療施設は厚生労働省が管理しています。この調査は厚生労働省が、国の行政機関・地方公共団体などが様々な統計の作成をするときの基本となることを定めが法律、「統計法」を根拠に行われます。
話はちょっとそれますが、行政は、ある事業を行う時は全てどの法律が根拠になっているかを示して行う事になっています。さまざまな事業が根拠となる法律があり、それがきちんと示されているのが行政の公文書なのであります。これを調べてみるのも面白いと思います。
その法律に基づいて調査がされるので各医療施設も従わざるを得ません。調査対象が「調査時点で開設している全ての医療施設」ですので、絶対的な悉皆性があります。3年に1回(調査年の10月1日現在の状態)行われる「静態調査」と、医療機関の開設・廃止・変更の届けを毎月収集する「動態調査」があります。「静態調査」は、各施設の状況とともに、検査・手術の実施状況や診療設備の保有状況など、診療機能が分かるような詳細な調査が行われます。
医療施設調査 ―静態調査と動態調査―
「動態調査」は、全国の医療施設から提出された開設・廃止などの申請・届出から毎月、医療施設数、病床数、診療科目などの調査を行っています。
「静態調査」は「病院」、「一般診療所」、「歯科診療所」の3種類の調査票があり、各々の機能によって調査票を使い分けるのです。一般の方は「病院」と「診療所」の違いがあまりはっきり分からない方も多いと思います。医療法においては、病院は20床以上の病床を持っている施設、診療所は19床以下の病床を持つ(0床でも良い)施設と定義されています。現在、病床を持たない診療所がほとんどです。
このように日本に存在するほぼ全部の医療施設が把握されているわけです。
直近の「静態調査」は令和2年(2020年)のもので、令和4年(2022年)2月下旬に概数が、4月下旬には確定情報が発表予定となっています。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/kouhyou/e-stat_79-1.xml
このURLのページを見てみると、発表されたデータ、まだ集計が終わっていないデータはデータ公開予定日を知ることができます。
オープンデータとしての医療施設調査
この「医療施設調査」の結果もオープンデータとして公開されていて誰でも使用することができます。
政府が行う主な統計調査のデータは「e-Stat」というサイトで公開されています。このサイトは日本のオープンデータの窓口として非常に多くのデータを見ることができます。
https://www.e-stat.go.jp/
その中で「医療施設調査」のページは下記です。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450021&tstat=000001030908&cycle=7&tclass1=000001123595&tclass2=000001123598&tclass3val=0
政府や行政機関が公開するオープンデータは非常に多くの情報が含まれているのですが、あまりにも膨大かつ自分が欲しいデータとしてまとまっていません。
このようなデータを使いこなすには、まず、どんな情報がこのデータの中にあって、どのように使えば良いのかを考えることから始めなければなりません。
これから、そのヒントをお話ししていきます。
病院数、一般診療所数、歯科診療所数と使い方のヒント
「静態調査」ではまずこの分類で施設数が集められます。そうすることによって各地域の施設数を割り出すことができます。それも毎月、アップデートされていきます。
この施設数は市町村別にも区分けされており、各市町村の医療施設数とその年次推移もデータとして得られます。これだけでも新規開業などのコンサルティングなどに使えますが、これを総務省で行われるオープンデータのひとつ「国勢調査」で得られた住人数と連携することにより、人口減で診療所数が減っているのかが分かります。また、人口増加に追い付かない診療所数の増加であると判断するとまだまだ診療所が足りない地域であると判断できます
「診療所」は増えているけど「病院」が増えていない地域は病院の増床・新設の必要がある地域という事も解析することができます。
また、マンションや住宅分譲などを検討する際にも、医療施設がどのくらいあるかも大切が情報と考えられます。
このように、単に医療施設の数だけでも地理的位置を組み合わせることによってさまざまなマーケティングを行うことができるのです。
「静態調査」での医療機器のデータと使い方のヒント
医療施設調査では、各施設が有している放射線装置の種類と数も把握されています。医療機器は時代を反映しています。
厚生労働省のHPから見ることのできる調査票を見てみましょう。平成11年(2009年)の調査票ではただ単に調査対象の施設がCT、MRIを所有しているかどうかでしたが、平成26年(2014年)では、CTはマルチスライスのCTかどうかも調査票に記入することになっています。
しかも、マルチスライスの列数まで調査対象になっています。もともとCTは1列の管球(放射線を出す装置)の信号を1列の受像機(放射線のデータを画像にする装置)で受けて画像にしていましたが、近年は一つの機械で何列ものその装置を装備したものが高度医療危機として出てきています。それを装備しているかどうかもこの調査でわかるのです。同じように、MRIも磁場の強さを表す単位「テスラ」を記載するようになっています。
今、多くの病院が1.5テスラの機械を有していますが、最新鋭機は3.0テスラの機械です。3.0テスラ以上の機械は別に記載することになっていますので、最新鋭機を有しているかどうかも分かるのです。
これも、二次医療圏別にオープンデータとなっていますので、どの地域にどのくらい高度な医療機器が備わっているかが分かります。
まず、医療機関でのこのデータの使い方ですが、二次医療圏での高度医療機器の所有状態を知ることで、もし、二次医療圏での導入が少なければ先駆的にその機械を入れ、「地域初導入」などと連携先の診療所などにアピールして差別化ができます。しかし、すでに二次医療圏で多く導入されていたとしたら、早急に現行の旧機種との入れ替えを検討しなければならないということになります。
「静態調査」医療機器のデータのビジネスでの使い方
次にビジネスでの使い方ですが、このような高度医療機器を製造販売する会社では、そのような装置をまだ導入している医療機関が少ない地域を割り出すことができます。そこにビジネスチャンスが生まれます。また、すでに多くの装置が稼働している地域では、一つ一つの病院を調べ、導入されていない病院に「出遅れていますよ」とセールスをかけることができます。機器のメーカー、導入年などさらに細かいデータを連結することにより、飽和している地域でも機器の入れ替えのチャンスをうかがうことができる訳です。
住宅、マンションの販売を行う会社では、その地域の医療レベルを把握でき、売りに使う事も出来ます。また、医療機器がそう充実していない地域であるとしたら、周辺の二次医療圏も調べ、そこへのアクセスなどの条件を検討することで、デメリットを回避することができます。もちろん、計画段階からこのようなデータを調べて、実施の可否を検討する材料にもなります。
医療施設調査で調べられているちょっと変わったデータ ―院内保育所―
いままでは、医療施設調査で届け出をされているデータの一部をご紹介してきましたが、今までの二つは、「なるほど医療施設調査らしい」と読者の皆様も感じることができると思いますが、ちょっと変わったデータも届け出を要求されています。
それは、「院内保育所」の有無です。男女雇用機会均等法の平成19年(2007年)の改正で出産・育児などによる不利益取扱の禁止が制定されたためか、平成20年(2008年)からの調査項目となっています。この病院別のデータを入手することができれば、人材派遣などのビジネスに役立てることができるのですが、残念ながらそのような事はされていません。
まとめ
医療施設調査の「静態調査」は3年ごとに全ての医療施設に行われる悉皆性のある調査です。「動態調査」は毎月、まとめられ公表されており、医療施設数や機能の変化が分かります。
医療施設調査には、各医療施設の詳細なデータを収集しており、公開されているオープンデータだけでも有用な情報があふれています。今回ご紹介した他にもさまざまなデータがあります。
ぜひ、このデータを様々な事に役立ててください。