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病床機能報告とは 概要や活用方法を分かりやすく解説

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地域医療において、医療提供体制の現状と将来的な需要との差を埋めるためには、地域の医療機関が担っている医療機能の現状を把握・分析する必要があります。そこで、厚生労働省が策定したのが「病床機能報告制度」です。

病床機能報告制度では、医療機関が有する病床の医療機能を自ら選択し、各都道府県に報告します。その報告された病床機能報告データは、厚生労働省によってオープンデータとして公開されています。

この記事では、病床機能報告データをビジネスに生かしたいと検討されている方に向けて、病床機能報告制度の概要やデータの活用方法をわかりやすく解説します。

病床機能報告とは何か

2014年(平成26年)より、地域の医療機関が担っている医療機能の現状を把握し、分析を行うために「病床機能報告制度」が始まりました。

病床機能報告制度では、医療機関が有している病床が担っている医療機能の現状と今後について、病棟単位で都道府県に報告することが義務付けられています。また、医療機能に加えて、病棟が備えている設備やスタッフの配置、医療行為についても報告対象に含まれます。

報告を行う対象の医療機関は、一般病床または療養病床を有する病院および診療所(注1)です。

注1:病院および診療所
「病院」は20床以上の病床を有するものとし、「診療所」は病床を有さないもの、または19床以下の病床を有するものと定義されています。

病床機能報告制度の背景

高齢化社会が進む中、それに比例して医療・介護サービスの需要も高まりをみせています。

ところが、医師不足、医療機関の地域的偏りなどもあいまって、医療資源が一部地域で不足しているのが現状です。
医療資源とは、医療に関する財源・人材・設備を指します。医療ニーズに見合った適切な医療資源の振り分けが、急務課題として挙げられています。

そこで、地域医療構想(注2)の下、患者の状態に合った病床で適切な医療が受けられるように医療機能の分化、病院間の連携を促進させる必要があります。限りある医療資源を有効活用することで現況の課題を解決し、来たる2025年問題注3へ対処すべく、病床機能報告制度は策定されました。

注2:地域医療構想
年々深刻化している高齢化社会に対処すべく、地域の医療関係者間で協議を行い、医療機能の分化と連携を促進し、効率的な医療提供体制を実現するための取り組みです。地域医療構想では、超高齢化が予想される2025年までに構想区域における課題を解決することを目標としています。

注3:2025年問題
団塊の世代(1947~1949年生まれ、約800万人)が75歳以上の後期高齢者になることで、介護・医療費などの諸問題の急増が見込まれる事態のことです。世帯数の見込みは、約1,840万世帯と言われています。また、社会保障給付費も増加する見込みです。

病床機能報告がオープンデータである理由

都道府県に報告された病床機能報告データは、オープンデータとして厚生労働省のホームページに公表されます。全国民が情報を閲覧・分析できるように公表されている理由は、以下の2つです。

  • 地域の医療機関や住民などが、医療提供体制の現状と将来像を共通認識できる
  • 医療機関の取り組みや協議によって、医療機能の分化・連携が促進される

理想的な医療提供体制を実現するためには、国や地方公共団体が患者個人に対して医療資源を振り分けるのではなく、患者自身が適切な医療資源を選択する必要があります。

選択するためには情報を知る必要があり、病床機能報告が公開(オープン)になっていることが、情報を「知る」ことにつながっているのです。

公表内容が気になる方は、厚生労働省のホームページをチェックしてみましょう。

病床機能報告の具体的な報告内容 ~カテゴリ~

報告内容として定められている医療機能は、患者の状態に見合った病床で、より良質な医療サービスを受けられる体制作りを実現するために以下の4カテゴリに分類されています。

1.高度急性期

急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能

2.急性期

急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能

3.回復期

急性期を経過した患者に対し、在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能(ADLの向上や、在宅復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に提供する回復期リハビリテーション機能)

4.慢性期

長期にわたって療養が必要な患者を入院させる機能(重度の意識障害、筋ジストロフィー患者、難病患者などはこの分類です)

これら4つの医療機能に対して、医療機関は都道府県に報告を行い、都道府県は2025年の必要量を定めます。2022年度の病床機能報告における、2022年(現状)と2025年(見込み)の病床数の差は、以下のとおりです。

※急性期とは、発症後急激に健康が失われていく状態を指し、「かかりつけ医」の制度が推奨される状態を指します。

病床機能報告データの活用方法


病床機能報告データは、医療施設の自己申告ではあるものの見込みや予想ではなく、結果のデータです。

厚生労働省が実施しているため、データの信頼度は高く、全国の医療機関から集められた膨大なデータ数を誇るため、医療機関の現状および今後の展望の把握・分析に有益な情報と言えるでしょう。企業・病院・患者の三者における病床機能報告データの活用方法を紹介します。

【企業】医療商材の営業を効率化する

自社の医療商材(入院ベット、点滴用の器具、針、医療用毛布等)が、どの病院にマッチングするかを分析することで、効率的な営業活動が可能です。

例えば、2025年時点の医療機能として、慢性期を選択している医療機関が多い市区町村であれば、入院ベッドの高い売上が見込めるでしょう。特に、現状と2025年時点の医療機能に差がある医療機関は、それまでに設備を整えていく必要があるため、医療商材を購入する確率が高まります。

【企業】病院検索システムを拡充する

病院検索システムを提供する企業では、病床機能報告データを用いて、より具体的な条件設定で病院を絞り込むサービスが展開できます。病院(病棟)の設備や医療機能で絞り込んだ病院を地図上に表示するなど、利用者の病院選定に有益なシステムが提案可能です。

【企業】在宅医療の研修プログラムを提供する

退院時に在宅医療を必要とする患者数が多い地域の医療機関に対して、在宅医療の研修プログラムを提供できます。日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査結果」によると、人生の最後は自宅で迎えたいと答えた人の割合が約6割にものぼりました。

在宅医療の高い需要を満たすためには、訪問看護ができる医師の確保が重要です。病床機能報告データを、在宅医療が必要とされている地域であることのエビデンスとして使用することで、研修プログラムを受講してもらえる確率が高まるでしょう。

【企業】ベビー用品の需要が高い地域を選定する

ベビー用品を取り扱う企業であれば、病床機能報告データの「分娩件数」を活用して、製品の需要が高い地域を選定できます。一般的には自宅に近い病院で出産する方が多いため、分娩件数とその地域に住む子育て世代の数は比例すると言えるでしょう。

自宅と病院が近ければ、通院の負担が最小限で済む上に、陣痛や破水が起きた際にすぐに産婦人科へ行けます。分娩件数が多い地域には、子育て世代が多く住んでいるので、ベビー用品の需要が高い地域と言えます。

【病院】経営改善のための戦略を策定する

近隣の病院が、何を強みとしているか、また何を強みにしていくつもりなのか、を分析することで、競合を避け、ひいては医療資源の適材配置に寄与することが可能です。

例えば、東京都千代田区にある急性期の病院に在籍していると仮定して、近隣病院の強みを分析してみましょう。まずは、病床機能報告データを千代田区・急性期でフィルタリングし、新規入院患者数(年間)の降順で並び替えます(図1)。

新規入棟患者数(年間)が多い病院は、競合となる近隣病院に対して、患者の需要を満たしている病院です。病棟部門の職員数を見ると、看護師の数が常勤・非常勤を合わせて20人以上が在籍しており、患者のサポート体制が充実しているという一つの強みを導き出せました。

一方で、作業療法士や言語聴覚士、理学療法士などはほとんど在籍していないため、該当する職員の増員が、改善すべき要素と言えます。


図1:令和5年度病床機能報告 関東地方(東京都-神奈川県)

【患者】医療体制が整った地域かを判断する

救急搬送を積極的に行っている地域かどうかを分析することで、転居する際の地域選定に役立ちます。万が一救急搬送が必要になった際に、体制が整った医療機関に迅速に搬送してもらえるかを判断できます。特に、ご家族に持病がある方や高齢の方がいる場合、緊急事態への備えが欠かせません。

まとめ

2025年に団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になることにより、介護・医療費の増大、現役世代の社会保険料の増大、慢性的な人材不足などの諸問題が危惧されています。それに対処すべく制定されたのが「病床機能報告制度」です。

医療にまつわる諸問題は、もはや現代社会と切っても切り離せない重要課題となっています。高齢化社会の抱える医療問題を解決するために、病床機能報告データを活用してみてください。

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