医療機器サプライチェーンマネジメント(SCM)とは|2パターンの「遠い」に注目
サプライチェーンマネージメント(SCM)は人によって定義が異なりますが、私の理解では、「ベンダー管理」や「需要予測」に始まり、「購買」、「ロジスティクス」、「カスタマーサービス」といった実際の物を動かしたり、顧客との接点までサポートしたりと正に必要なものを必要なときに必要なだけ安全に届ける為のチェーンとなっています。
英語で“weakest link is the strength of the link(「そのつながりの一番弱い部分が、そのつながりの強度」の意)” と言われますが、SCMでも同様にチェーンの中で一箇所でも予定した動きができないと、それがそのままサプライチェーン全体のスループットを押し下げることになりますので、“一番弱いところが、そのサプライチェーンの実力”と考えています。
医療機器サプライチェーンマネジメントとは
サプライチェーンのどの部分が管理しやすく、どの部分が自分の思う通りになりにくいのか?私の経験では、「遠い」ほど難しくなります。ここで言う「遠い」は、物理的または時間的な二種類があります。サプライチェーンの中ではスタート地点でもある「ベンダー管理」や「フォーキャスト」がこれにあたります。
サプライチェーンは「物理的に遠い」と難しい
海外から製品や原料を輸入して、国内の製造や販売に回す場合、海外のベンダー管理は時間と距離により、意思の疎通どころか要求を確認させることも難しかったりします。日本人であれば「阿吽の呼吸」があり、緊急時には無理をしてでも助けてくれることが数多くありますが、文化の違いなのか、単になめられているのか、言ったことを履行させるだけでもひと苦労です。
サプライチェーンは「時間的に遠い」と難しい
大手顧客からの販売間際のドタキャンや、市況や風評等による大幅な需要の変動は別として、長く商売をしている製品であれば、来月とか再来月の需要予測は比較的高い精度を保てますが、半年後や来年となるとなかなか難しいものです。売る人は「今季の予算」や「年度末のプッシュをどうする?」などのレンジで見てますが、これが原料を輸入して国内で製造となると、原料の発注は販売から遡って半年とか8ヶ月前になります。
距離、時間ともに自分に近づけば近づくほど管理がしやすくなるもので、逆に遠くなると難しくなりフラストレーションがたまります。
次回以降で実際にあった例を紹介しながら、フラストレーションの共有ができればと思います。
僅少在庫の取り合いは日本が不利?
物理的な遠さは海外からの購入などの場合に強く感じられます。
外資系の医療機器会社での経験ですが、製造拠点が米国と英国にあり、当初グローバルのサプライチェーンは米国と英国のSCMチームに仕切られていました。リコールが発生しても、日本に情報が入ってくるのが海外での第一回目の対応会議から一週間後といったことはあたりまえで、改善後の製品の割り振りも知らないうちに決まっているような状態でした。
また、日本は真面目にフォーキャストを送り、発注も十分なリードタイムをもって行っていますが、米国でQAが通らない等の理由で品薄になった時に、受注順を飛び越して英国の注文に引き当たることも多々ありました。距離の問題なのか、それとも同じ言語を使用するアングロサクソンの結束なのか、同じグループ内でも不利と感じました。
半分疑心暗鬼になっているところで当時の部下が半年以上欠品となっていた製品を製造計画の時からモニタリングし、米国の出荷倉庫で日本のオーダーに引き当たったところまで確認しましたが、なんと翌日には日本からのオーダーが再び受注残のステータスに戻り、一旦日本向けに引き当たった製品が同日中に英国に向けて出荷されていました。米国の受注データ(受注日含む)や日本のオーダーに引き当たった画面のスクリーンキャプチャーなどの証拠を基に、英国に送ったことは責めずに、「英国から日本に向けて再輸出」をするよう強く依頼しましたが、無視でした。
Face to Faceで話ができたり、受注データを操作できる人物との信頼関係があったとしたら、こういったことは回避できたのではないかと考えます。
転職して早々の出来事でだいぶ凹みましたが、その後気を取り直してSCMのプランナーや工場の製造計画などとのコミュニケーションを積み重ね、2年を過ぎた頃からグローバルのSupply、Demandのトップと年に数回会って話ができるようになって、「距離」が縮んだと感じるに至りました。北米・ヨーロッパ・日本での電話会議は日本時間の25時や26時が常でしたが、声もかかるようになり、海外の意図を汲みつつ、時にはお金の話をすることで相手の視界に入り、『日本は?』と聞かれるようになりました。
物理的な距離というと「移動にかかる時間」を連想しますが、それはまた次回で。