電気使用量のHEMSデータを利用するメリットとオープンデータとの関係
目次
ホーム・エナジー・マネジメント・サービス(エネルギー管理システム、以下、HEMS)に関するデータは、省エネルギー政策や関連ビジネスに欠かせないものとなっています。
経済産業省は、HEMSやHEMSデータが、新しいサービスの創出や国民の生活の質の向上、経済活性化にも寄与することを期待しています。
この記事ではHEMSデータを利用することのメリットを紹介したうえで、オープンデータとの関係について解説します。
そもそもHEMSデータとは何か
最も単純なHEMSデータは、家庭の電気の使用量です。例えば、夫婦が3LDKのマンションで1カ月暮らして2万円の電気代を支払ったときの電力使用量はHEMSデータです。
ただHEMSデータは今、かなり複雑化しています。
スマートメーターから集めた電気使用量などのこと
HEMSデータについては、行政機関や企業がさまざまな形で定義しています。例えば次のとおり。
■ 経済産業省のHEMSデータの定義
HEMS機器を利用して収集されたデータ
■ 内閣官房のHEMSデータの定義
住宅やビルなどに設置したスマートメーターやエネルギー管理システム(HEMS)から収集したデータ
■ 企業のHEMSデータの定義
家庭内の電気を使用している機器の電気使用量や稼働状況に関するデータ
これらの定義から、HEMSのHはホームでありながら、その対象は一般家庭だけでなくビルなどの商業施設も含まれることがわかります。
そしてHEMSデータを生み出すものは、HEMS機器やスマートメーター、エネルギー管理システムであることもわかります。
HEMSデータの正体は、電気使用量や機器の稼働状況などのことです。
HEMSデータの種類
より具体的に、HEMSデータにどのような種類があるのか紹介します(*1)。
■ HEMSデータの具体的な種類
- HEMS機器の属性情報
- HEMS機器の設置状況に関する情報
- HEMS機器によって集めた家電や住宅設備の動作に関する情報
- 測定された電力量
- HEMS利用者の情報を統計的に処理した情報
- HEMSサービスの顧客情報
- 太陽光発電の発電量
- 蓄電池の蓄電量
これらはほんの一例であり、家庭やビルなどで使われている電気に関するデータや情報はすべてHEMSデータになりえます。
HEMSデータで何ができるのか~活用するメリットを紹介
HEMSデータの正体がわかったところで、これを活用すると、企業や生活者、行政機関、経済にとってどのようなメリットが生まれるのか確認していきます。
民生部門のエネルギー消費を減らすことができる
国の国家戦略室はグリーン政策大綱を作成し、このなかでHEMSデータは世界最高水準の省エネ技術を深化させるのに役立つ、としています。
企業や消費者などのことを民生部門といい、ここが日本のエネルギー消費の3割を使っています。そのためグリーン政策を進めるうえで、民生部門のエネルギー消費を減らしていくことも重要課題になります。
民生部門のエネルギー消費を減らすには、断熱材や燃料電池の利用が必要であり、さらにそれに加えてHEMSの導入も欠かせません。なぜならHEMSはエネルギーに関するデータを効率よく、かつ、大量に集めることができるからです。つまりHEMSはエネルギーに関するビッグデータをつくることができます。
エネルギーに関するビッグデータを集め、それを分析すれば、より効率的な省エネ手法を考えるときの資料になります。
国は2030年までにHEMSを全世帯に普及させるという目標を掲げています。
30分ごとに電気使用量がわかるからすぐに省エネ行動を取ることができる
ではなぜ、HEMSやHEMSデータを活用すると省エネを実現できるのか。
冒頭で、家庭の1カ月の電気使用量もHEMSデータの1つである、と紹介しました。
これは電気事業会社の検針員が月1回電気使用量を計測しているだけですが、それでも生活者は「先月は電気を使いすぎたから今月は注意しよう」と思えるので省エネにつながります。しかし、月1回の省エネ行動では大きな効果は望めません。
家庭がスマートメーターを導入すれば、例えば30分ごとの電気使用量がわかります。これがわかれば、「それほど暑くないのに電気使用量が増えているのはクーラーの温度設定が低すぎるからだろう」と気づくことができ、その場で省エネ行動に移ることができます。
省エネ生活を日本中に広め、新しいビジネスができる
環境省には、「国民への具体的な省エネ・アドバイスへの展開と、それに関連するデータが不足している」という問題意識があります。
つまり、国民に省エネをしましょうと呼びかけても、できることはこまめにスイッチを切ることくらいです。
そこで環境省は、省エネに活用できるデータを集め、それを元に省エネ生活モデルをつくり、それを国民に実施してもらおうと考えています。
その方法を紹介します。
まず、モデルとなる家庭にスマートメーターなどを導入してもらいHEMSデータを集めます。さらに、家庭にアンケートを実施して、季節ごとの電気使用のパターンを把握します。
こうしたデータ・情報から1)エネルギー消費傾向や、2)エネルギー利用の削減ポテンシャル、3)省エネ・ポイントなどを分析していきます。
このような分析結果を住宅メーカーやエネルギー関連企業、IT企業などに提供して、省エネ住宅や省エネIT機器などをつくってもらいます。
生活者がこれらの商品や製品を使えば電気使用量が減り電気代が減額され、家計が潤います。
またこれらの商品や製品が売れるようになれば新たなビジネスを創出でき経済が活性化されます。
つまりHEMSデータを活用すれば日本中に省エネ生活を普及させることができますし、日本経済も活性化されるわけです。
オープンデータとは
続いてオープンデータについて解説します。
オープンデータは、コンピュータが判読できるデータ形式になった、2次利用が可能な公開データ、と定義されています。
公共部門のデータを民間に利用してもらう仕組み
政府や自治体などの公共部門はさまざまなデータを持っています。そのデータのなかには企業などの民間部門では集められない貴重な情報も多く含まれています。
そこで公共部門が、自分たちが持っているデータを企業などに提供します。企業などはそれを使って新しいビジネスをつくったり、新しい製品やサービスをつくるときの資料にしたり、現状分析に使ったりすることができるでしょう。
広く開かれたデータなので、オープンというわけです。
HEMSデータ×オープンデータの実例
ここまでで、HEMSデータとオープンデータの基礎知識を理解できたと思います。
今、HEMSデータとオープンデータをビジネスに使う動きが芽生えつつあります。
岡山大学工学部計算機科学講座の研究チームは、HEMSに関するオープンデータとAIを活用して、在宅予測をするシステムを開発しました。
在宅予測をして宅配便の再配達を減らす
在宅予測とは、ある家に人がいるかどうかの予測です。研究チームは、在宅予測ができれば宅配便の再配達が減らせると考えました。
再配達は宅配便業者にも荷物の送り主にも荷物の受け取り主にもストレスを与え、さらにエネルギーも浪費します。
研究チームはHEMS(家庭用エネルギー管理システム)を使い、ある地域の電気使用量、水道使用量、ガス使用量のデータを集めました。ここでは電気だけでなく水道やガスのデータもHEMSデータに含まれています。
さらに、人口統計のデータも使い、これがオープンデータになります。
これらの膨大なデータをAIに学習させ、ある家の時刻ごとの在宅確率を割り出しました。
例えば、1丁目1番地のAさん宅は、18時の在宅確率は10%だが、19時になると60%に上がる、といった結果を導き出します。
この1軒1軒の在宅確率を受託地図に落とし込むと、ある時刻で在宅確率が高いエリアと低いエリアがわかります。
この在宅予測エリアマップを宅配便業者のトラックドライバーが使えば、在宅確率が高いエリアから配達することができ、受け取ってもらえる確率が高くなります。その結果、再配達が減るわけです。
まとめ~省エネの取り組みを効率化する
この記事の内容を箇条書きでまとめます。
- HEMSデータとはHEMSで集めた、家庭や企業などの電気使用量のデータのこと
- HEMSとはエネルギー管理システムのことであり、スマートメーターもその1つ
- HEMSデータを使うと人々の省エネ行動が広がる可能性がある
- HEMSデータを使うと新しいビジネスが生まれる可能性がある
- オープンデータとは、政府や自治体が持っているデータを企業などが使えるようにしたもの
- HEMSデータとオープンデータを使って在宅予測システムをつくった事例がある
環境問題やエネルギー問題は、人類全体の課題でありながら1人の日本人や1社の日本企業の課題でもあります。そして省エネは1人でも1社でも取り組むことができる課題解決策です。
HEMSデータとオープンデータは、省エネの取り組みを効率化して拡大することに貢献するはずです。